技術経営系専門職大学院協議会

第二回シンポジウム [開催報告] #2

2006年12月18日開催

開会挨拶

第二回MOTシンポジウムの開催にあたり、以下の3名の方よりご挨拶いただきました。

MOT協議会会長 東京農工大学 大学院技術経営研究科長 古川 勇二

MOT協議会会長 東京農工大学 大学院技術経営研究科長 古川 勇二

MOT協議会には文部科学省の設置認可をいただいた10校が参加し、MOT教育のPRと質的向上に努めている。文部科学省、経済産業省のご支援をいただいて、昨年度は第1回MOTシンポジウムをMOTの認知をいただくために開催し、今年は第2回MOTシンポジウムを「MOT人材がもたらすイノベーション」のタイトルで開催する。狙いは、1.研究を事業化する過程でのMOT人材の必要性 2.イノベーションの課題とそこでのMOT人材の必要性 3.日本型MOTスクールの欠陥とその改善 等々について率直に議論し、「日本型MOT」を創り上げていくことである。

文部科学省 高等教育局 専門教育課長 永山 裕二

文部科学省 高等教育局 専門教育課長 永山 裕二

労働力人口が減っていく中で日本社会が活力を保っていくには、知の水準向上が必要で高等教育が果たす役割は大きい。教育基本法が成立し教育理念が明らかになったが、課題はそれをどのように具体化していくかである。実社会に役立つ人材を生み出すこと、特に、自分で考え、問題解決能力を持った人材の育成が大学院教育に求められ、MOTへの期待は大きい。教育の質の向上を目指して大学が頑張る事は勿論であるが、人材を受け入れる産業界も、MOT教育に対する理解とご支援を御願いしたい。

経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進課長 吉澤 雅隆

経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進課長 吉澤 雅隆

日本の現状に危機感を持っている。2007年問題といわれるように高度成長期を支えた人材が引退し、これからは従来とは違うイノベーションモデルを生み出していかねばならない。そこには地図がなく、自ら考えて創り出していく必要がある。研究開発を自社でやるのか、大学にそれを求めるのか、イノベーションを担う人材を内部に求めるのか外部に求めるのか?多くの大学でMOT教育が行われているが、その人材が活躍できるような受け皿を産業界が作っているのか?大学も具体的にどんな人材を育成し、どんなメリットを社会にもたらすかを真剣に考える必要がある。
経済産業省は、日本のイノベーションを支える人材育成を支援していく。

基調講演

『本格研究と技術経営』

独立行政法人 産業技術総合研究所理事長 吉川弘之 氏

独立行政法人 産業技術総合研究所理事長 吉川弘之

持続可能な開発が現代のイノベーションの目標である。地球持続性と開発速度との二つの軸の中で、持続可能な開発を可能にするのが科学技術研究開発である。サステイナブルな社会の実現に向けて、伝統的な開発(予想可能なフロンティア=適度のリスク)から、産業変革を必要とする持続性産業(予想不可能なフロンテイア=量と質との二重のリスク)へと産業の軸足を移動していく必要がある。産業には一次産業/二次産業/三次産業がある。これらを付加価値とCO2排出量との軸で見ると、一次・二次産業は効率を同じにして規模を縮小または拡大しており、CO2排出を抑制して規模を拡大しているのはサービス産業である。しかしサービス産業は一次・二次産業の支えがあって成り立っており、ここに産業の重心を見直す必要がある。

1960年から1990年の高度経済成長期には製造業を中心とするイノベーションであった。政府主導・民間主導によって、大学の基礎的科学技術を製造業における製品化に結びつける「知識の流れ」があった。21世紀には高度成長時代のような知識を流す道がなくなった。大学における基礎的科学知識が20世紀よりもはるかに豊富になったが、企業においては競争が激化し、基礎研究所が廃止され、製品の選択と集中化が進み、技能者技術者が不足する事態を招いている。大学における基礎研究(第1種基礎研究)を企業における製品化に結びつける「知識の流れ」が必要で、新しい産学連携の道を作る必要がある。

イノベーションの典型は「夢」—「悪夢」—「現実」の3過程を経て実現される。「夢」は大発見や画期的発明に対し人々が大きな関心を抱く段階である。しかし研究開発が進むと共になかなか「夢」が実現できず人々の関心は急速に低下する「悪夢」の時代に入る。そこでもへこたれることなく研究開発を続けることによって、「夢」が「現実」のものとなっていく。「夢」と「現実」の間に横たわる「悪夢」(ギャプ:死の谷)を埋めることが、日本のイノベーションの鍵になる。

大学で行われている科学技術研究(第一種基礎研究)は新しい科学知識を創出するものであるが、現実には企業における研究(民間での事業化・製品化)に繋がっていない。産業総合研究所で取り組んでいる本格研究(第二種基礎研究)は、「悪夢」を埋めイノベーションを可能にする研究として取り組んでいる。第二種基礎研究は社会における新しい価値を創出する研究である。第二種基礎研究(本格研究)が大学・公的研究機関に拡がり、大学—独立法人研究所—産業の3者が連携することが必要である。連携は、「企業研究所内大学型」、「大学内企業研究所型」などの立体(3次元)連携が考えられる。

産総研と企業とのシナリオ共有による連携プロジェクトの例として「医薬製剤原料生産のための密封型組み換え植物工場の開発」、新しいスキームによる研究成果の企業への橋渡しとして、「有限責任事業組合(LLP)制度による高品質SICエピタキシャルウエハの安定供給」が紹介された。

大学・研究所と産業との連携における「接点」が必要である。新しいスキームによる研究成果を企業に橋渡ししていく人材として、「産業技術構成者(アーキテクト)」が求められる。産業技術アーキテクトは知識の供給者である大学・研究所と知識の使用者である企業の接続者としての専門人材で、研究成果に対する知識と使用者の要求を共に熟知している必要がある。産総研では本格研究を推進する「産業技術アーキテクト」を「ものつくり」のための接点と位置付け、教育体系もこれまでの分野からなる縦割りでの体系化から、Designを理論的に教え、それを現実の問題として分析し、実務を体験的に覚える方向に移してきている。すなわち、縦軸(一般化した理論:General theory of synthesis)と横軸(現実的な法則:Systematic factual laws)からなるL字型の教育を行っている。「INVERSION」が必要になってくる。

このような人材を育成する教育機関として、MOTの役割が大きい。「本格研究」を事業化に結びつけるための人材として、技術を基礎に企業経営し、イノバーションによる事業拡大、起業を行う人材を育成していくことがMOTに期待される役割である。Syntheticな見方で「ものづくり」を行う人材が求められる。「ものをつくるPractice」のための知識が体系化されていない。技術経営における教育科目群として、下図を提案する。上下の二つの頂点には、抽象(技術に立脚する経営)と現実(対象とする技術)があり、それを企業内部、総合、市場、分析の4つの観点からまとめた科目群である。