MOT教育コア・カリキュラム(案)
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【内容】
作成の背景および考え方
技術経営(Management of Technology 以下、MOTと表記)とは技術を効果的に活用して経営を行うことである。近年においては科学・技術の進歩によりそれらが企業・組織の経営や社会に対して広範囲に大きな影響を及ぼすようになっている。すなわち、新技術に基づく製品開発や生産方法の革新のみならず、例えば情報・通信技術(ICT)の発展は企業活動における付加価値連鎖全体に影響を及ぼしている。このような状況下において企業・組織の創造的経営を推進し社会に寄与するためには、革新的な技術を生み出すための研究・開発に加えて、技術の役割を理解し活用することの重要性が著しく増している。つまり、企業・組織においては技術の最先端に関する追究だけではなく、技術の役割を理解し活用するためのマネジメント力が不可欠となっているのであり、MOT教育はこのようなマネジメント力の習得を目指して行うものとして位置付けられる。
高度な専門的職業人の養成に特化した大学院である専門職大学院について、MOT分野における社会的要請の高まりを受けて平成15年度を皮切りに10大学院が設置され、今日に至っている。
MOT専門職大学院において目指すのは、技術と経営の複眼的な視点から社会や企業・組織における様々な問題に対して創造的な成果創出を目指して取組む力を有する人材である。このような人材は企業や組織において、個別の細分化された課題を専門的知識やスキルによって解決することのみが求められるのではなく、国際的視野や社会性の点も含めた全体性(技術と経営の複眼的視点から全局面を俯瞰する)、先見性、論理性、実効性を有した総合的な施策を企画、立案、実行するとともに、経営的あるいは指導的立場に就いて企業や組織を牽引していくことが期待されるのである。産業の持続的発展や国際競争力の向上ためにはこのような人材の育成が不可欠である。
一方では、MOTは扱う対象の広さに応じて、教育の内容も広範囲に渡っている。現状では上記の専門職大学院以外の教育機関においても、特定の専門分野に特化したものやマネジメントの要素が含まれない従来の範疇で技術を扱う内容のものがMOT教育の名称のもとで行われるなどの事態もいくつか認められる状況となっている。この状況のまま放置するとMOT教育に対する産業界をはじめとする社会の期待と実態が乖離し、MOT教育およびこれを行う専門職大学院の適正な評価の点で混乱が生じる恐れがある。従って、MOT教育の質向上を図り社会の負託に応えるためには、MOT専門職大学院において共通に授与されるべき教育内容を整備し、これを社会に発信することが必要と考えられる。
これらを背景として、MOT専門職大学院として行うべき教育を検討し、「MOT教育コア・カリキュラム(以下、コア・カリキュラム)」を定めた。コア・カリキュラムは日本におけるMOT教育展開の基盤として作成したものであり、各大学が編成するカリキュラムの参考となるよう、MOT専門職大学院において学ぶ全ての学生が習得すべきと考えられる内容が示されている。このコア・カリキュラムは技術経営系専門職大学院協議会(MOT協議会)加盟の10大学の意見を反映させ、産業界からの意見も取り入れて作成されたものであり、今後広く活用されることが望まれる。今後、さらにMOT教育の質の向上を図り社会の負託に応えていくためには「MOT専門職大学院修了生の到達度の保証」を目指すことが求められる。これを実現するためには教育内容の整備に止まらず、到達度の基準と客観的な評価法の確立など多くの課題に取組むことが必要となる。今回作成したコア・カリキュラムは「MOT専門職大学院修了生の到達度の保証」を目指した今後の取組みの基盤として位置付けられるものである。
コア・カリキュラムは全ての学生が習得すべきと考えられる『知識項目』と習得した知識やスキルを活用して創造的な問題解決に取組む『総合領域』から成っている。『知識項目』は学生がミニマム・リクアイヤメントとして習得すべき項目とその項目について到達すべき状況を示したものである。『総合領域』は取組みの内容およびその成果の質的要件について示されている。
社会的要請を反映したMOT教育の内容は多様であり、専門職大学院ごとに独自の内容を持ちそれに基づく教育をおこなうことはMOT教育全体の発展にとって重要である。従って、各専門職大学院で修了までに行われる教育においては、独自に行う部分の方がコア・カリキュラムに記載された内容と比較して多くなることは何ら問題がない。つまり、コア・カリキュラムによって教育の目標を定めることが各専門職大学院の独自性、多様性を阻害するものであってはならない。
MOT教育に係る内容はその対象範囲が広いことに加えて、質的にも学術としてその地位が確立され体系化されたものから現時点では体系化の途上にあるものまで多様である。今後、社会からの要請、科学・技術の進歩などを勘案しながら継続的に充実させていくことが必要である。コア・カリキュラムの継続的な充実に基づくMOT教育の質向上ためにMOT専門職大学院においては既往の知見に依拠した教育をおこなうだけではなく、MOTに関連する種々の領域で学術としての体系化を目指した取組みを推進するとともにその成果を教育に反映していくことが使命として求められる。
1.知識項目
知識項目は「基礎知識項目」と「MOT中核知識大項目」からなる。いずれもがさらに詳細な内容の中項目群で構成されている。「基礎知識項目」はそれを構成する内容から「技術経営の基礎」と表示され、技術経営の理解に必要な基礎事項が示されており、MOT人材の素養に関わる内容である。ここではMOTにおける技術に関する項目から会計・財務やマーケティングなど企業や組織の経営に関わる項目まで技術と経営の複合的視点から課題解決に取組む上で必要となる基礎知識が示されている。「MOT中核知識大項目」は文字通りMOT専門職教育の中核的内容を構成する要素となっているものである。
MOT専門職大学院修了生は実社会において技術経営の複合的視点から創造的問題解決に取組むことが期待されるが、実務において実効性のある問題解決を行うためには、企業や組織において関係する様々な部門や人々と連携して取り組むことが求められ、そうした取組みを円滑に推進していくための共通認識ないしは共通の基盤として、技術と経営に関わる基礎的知識が必要となる。このような観点から、MOT教育におけるミニマム・リクアイヤメントとしての知識項目を提示している。前記したようにMOTに係る内容についてはその体系化の状況が多様であることから、知識項目についての記述の仕方も現状では完全には統一されておらず、項目によってはさらに詳細な内容を具体的に例示することでその内容の把握の一助としているものがある。
現在のMOT専門職大学院における教育は国家試験等による資格取得を想定したものではないので、コア・カリキュラムの知識項目の到達度を示すものとして「説明できる」と表示されている項目における「説明」は試験の設問に対する解答と同等の状況である必要は無く、課題解決の手段として知識が活用されることが重要であるとの観点から、説明実施の態様としては実践の場で必要な資料を参照、提示しながら行うなど、柔軟性をもって考える必要がある。
ここで提示した大項目や中項目の名称は教育によって修得すべき内容の表示と理解を容易にするためのものであって、大・中項目の名称が開講する科目名などと一致している必要は無く、一つの大・中項目が複数の科目による教育で達成されてもよく、大・中項目の表示の順序は教育を実施すべき順序を示すものではない。実施の形態も知識伝授型の講義に限定される必要は無く、演習、輪読、ゼミナール、実習など種々の形態が適用されて良い。MOT専門職大学院に入学する学生はその経歴が多様であり、コア・カリキュラムに示した知識項目によっては既に入学時に習得している学生が存在することも考えられる。コア・カリキュラムの知識項目は前記したように学生が到達すべき状況を表現したものであるから、既に到達していると判断される学生に対しては必修科目のような形式で履修を強いる必要は無く、学生の状況に応じて柔軟に対応すべきである。
2.総合領域
専門職大学院におけるMOT教育は単なる知識の獲得ではなく、実社会において創造的問題解決に取組む力の習得を目指したものである。創造的問題解決には習得した知識やスキルを複合的に活用することが求められ、学生は教育の一環としてそのような取組みを経験することが重要であり、この内容を総合領域として提示している。これに該当する取組みとして各大学において特定課題研究などの種々の名称で呼ばれるものがある。総合領域の対象となる課題は多様であることからコア・カリキュラムにおいてはその取組みの内容と質的要件で規定され、詳細が示されている。
コア・カリキュラムの構成を下図に示す。
A 基礎知識項目
《大項目》 1.技術経営の基礎
技術経営の基礎として知っておくべき内容を「MOTの概念的理解に関連する事項」、「技術と社会」、「企業戦略」、「組織・人材、企業倫理」、「ビジネスエコノミクス」、「マーケティング」「会計・財務」の領域に区分してそれぞれを構成する中項目を示す。
以下の中項目の説明において示した*印の部分はその中項目の教育に際しての留意点を補足したものである。
「技術経営」の視点から、技術、企業経営及び業務に必要な理論やその枠組みに関する知識を 体系的に理解し、主要事項を説明できる。
【中項目】
「MOTの概念的理解に関連する事項」
- MOTとは
MOTとは何か、その定義と目的、なぜ必要か、技術とは、経営とは、などについて説明できる。 - MOTの経緯
MOTの発祥、歴史、世界および日本の現状と動向について説明できる - MOTの扱う領域
MOTの扱う領域としては企業経営、科学技術政策、大学などにおける研究対象などがあるが、それぞれの領域と対応したMOTの特徴とする内容、共通点について説明できる。
*ここでは例えば、MOTとMBAおよびPSM(Professional Science Master)の違い、「MOT中核知識大項目」や「基礎知識項目」で扱う内容の相互関係、技術経済学や技術計量学など他の名称で表される分野とMOTの違いなどを扱うことも可能である。
「技術と社会」
技術経営は技術を基礎とする組織体における経営が対象であり、技術経営の専門職は単なる経済計算には還元されない技術固有の諸問題と経営との関係を洞察し、これを経営に応用する力が必要であり、これに関連する知識を示す。そのような技術固有の問題領域として、技術者倫理、科学技術と社会、技術とリスク、技術と標準化の中項目を「技術と社会」として表示した。
なお、「技術と社会」においては、説明文中の( )内にあげた項目は例示的なものであり、例示された事項のすべてを包含すべきと解釈されてはならない。全体として、中項目の内容に相当する事項がカバーされていればよいのであって、例示は具体像の把握と共有化の一助のために示したものである。
- 技術者倫理
技術の社会及び自然に及ぼす影響・効果と技術者の社会に対する責任について説明できる。 - 科学・技術と社会
科学・技術と社会の諸関係について理解し、これをイノベーションに応用する際に必要となる事項(例えば、科学・技術の社会的受容、科学・技術と環境、科学・技術と公共政策、科学・技術と国際関係など)について説明できる。 - 技術とリスク
技術に起因するリスクの分析、評価と、これを管理し、イノベーションに応用する際に必要となる事項(例えば、リスク分析、リスク評価、リスク・マネジメント、品質管理など)について説明できる。 - 技術と標準化
技術と標準化に関する基礎的事項(例えば、標準化の意義、標準化のステークホルダー、標準化のプロセスなど)について説明できる。
「企業戦略」
- 経営理念(ミッション)
企業の戦略に影響を与える経営理念(ミッション)についてその役割と重要性を理解し、説明できる。 - ドメイン
事業領域の選択に関わるドメインの意義を説明できる。 - 外部環境分析
企業の外部条件としての機会と脅威を分析するフレームワークを説明できる。 - 内部環境分析
企業の内部条件としての強みと弱みを分析するフレームワークを説明できる。 - 戦略の立案
戦略論のフレームワークを用いた戦略策定について説明できる。
「組織・人材、企業倫理」
- 企業倫理
企業や組織の一員として業務を遂行していく上で前提となる倫理観について説明できる。 - 組織マネジメント
組織の効率性と創造性を適切にバランスさせるためのマネジメント手法を説明できる。 - モチベーション
組織メンバーが組織目標の実現に向け活動するための、人事制度を含むモチベーションのマネジメントの枠組みを説明できる。 - リーダーシップ
組織目標を実現するためのリーダーシップの役割とその効果的な実践方法について説明できる。 - コンプライアンス
自社の活動に関連する主要法令及び行動規範について意義を説明し、遵守徹底に向けての個人的・組織的な取り組みを提案できる。 - 企業の社会的責任(CSR)
CSRの概念を理解し、事業活動を遂行するに当たっての位置づけと重要性を説明できる。 - リスク・マネジメント
自社を取り巻く主要なリスク項目とそのインパクトを列挙し、 それらリスク項目を組織的に管理するプロセスについて説明できる。
「ビジネスエコノミクス」
- 消費者の行動
ミクロ経済学の観点から、価格や所得の変化がどう消費需要量に及ぼすかに関する基礎的な事項を説明できる。 - 企業の行動
ミクロ経済学の観点から、企業が利潤極大化のため、市場の構造に対して、生産活動をどう行うべきかに関する基礎的な事項について説明できる。 - 市場のメカニズム
ミクロ経済学の観点から、企業の目標は利潤極大化、家計の目標は効用極大化で、両者の相互作用が、需要、供給、価格となって現れることを説明できる。 - 統計
データ分析とデータを用いた仮説検証・推定の統計的な意義を説明できる。
「マーケティング」
マーケティング戦略の立案と実践に必要な主要事項について説明できる。
- 市場機会の発見
顧客のニーズ、企業のシーズ、ビジネスを取り巻く環境変化に着目し、市場機会の探索方法について説明できる。 - セグメンテーションとターゲティング
マーケティング・リサーチ方法の過程、市場セグメンテーションの方法、ターゲット市場の選定方法について説明できる。 - ポジショニング
自社製品の独自性(競合製品との差別化)と製品ポジションの設定方法について説明できる。 - マーケティング・ミックス
製品、価格、流通チャネル、プロモーションのそれぞれの戦略について概要を説明できる。 - ブランド
ブランドの重要性と状況に応じたブランド構築について説明できる。 - 顧客満足 (CS)
顧客満足の特徴と顧客満足を高める方策について説明できる。 - 生産財マーケティング
購買行動の特徴等、消費財マーケティングとの相違に留意しながら、生産財市場におけるマーケティングについて説明できる。
「会計・財務」
<会計・財務の狙い>- 財務諸表の意味と仕組みを理解する
- 財務分析による他社比較ができる
- 企業価値評価の方法を理解する
- 投資採算性の評価方法を理解する
- 複式簿記
企業会計においてあらゆる経済活動を2面的に記録することの意味を理解し、簡単な仕訳ができる。 - 財務諸表
損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の意味と作成方法を理解し、相互の関係を説明できる。 - 原価計算
原価計算の基本的な仕組みと役割を説明できる。 - 直接原価計算と全部原価計算(管理会計の考え方)
原価を変動費と固定費に分け、固定費を在庫に配賦しなければ原価が異なることを理解している。 - CVP(Cost/Volume/Profit)分析と損益分岐点
変動費と固定費の内訳から、損益分岐点売上高を計算する方法を説明できる。 - 企業価値評価
企業価値の概念と主要な評価方法を説明できる。 - 投資採算分析
投資プロジェクトの採算性について各種の評価方法を説明できる。 - 資金調達と資本コスト
資本調達源泉の基本が理解できるとともに、負債コストと株主資本コストによる資本コストの概念を理解し、適切な資金調達方法を説明できる。 - 税務上の利益
企業経営において課せられる税金の種類と、会計上の利益と課税所得の違いを説明できる。
B MOT中核知識大項目
《大項目》 1.イノベーション・マネジメント
イノベーションという概念を整理し、イノベーションを高い確率で実現するための理論的基盤に関する知識を修得する。すなわち、イノベーションの実現を考える際に必要となる基本概念を習得する。
<教育に際しての留意点>
より実際的な手法や考え方は業種や時代、地域、政治などの外部環境や企業規模、企業文化などの内部環境に依存するために一般化、共通化することは容易ではない。それゆえ、実際的な手法や考え方は受講生のニーズ等に基づいて習得を図ることが望ましい。
【中項目】
- イノベーションとは
シュムペーターの「新結合」を含め「イノベーション」ということばが表す概念について説明ができる。
*説明は以下の理解に基づいてなされることが望ましい。すなわち「イノベーション」は経済的価値の創出を伴う概念であり、技術の変革は必須要件ではないこと、事後的な概念であり事前的に実現を確実に制御できるものではなく、実現の確率を高めることがマネジメントの要点であるとして扱うべきものであること。
- 企業経営とイノベーション
現在、日本企業になぜイノベーションによる発展が必要とされるのか、パラダイム・シフトの必要性(なぜ、改良、改善など従来の延長線上の予測が及ぶ範囲でのインクリメンタルな進化では不十分なのか)などについて議論することができる。
*イノベーションの必要性について、現代社会において利益の源泉は差異性であること、差異性に永続性は無いこと、差異性の創出はイノベーションによるものであることなどの理解に基づいて議論できるのが望ましい。
- イノベーションの機会
上記1,2の内容と関連の深いイノベーションの事例を示すことができる。
*例えば、シュムペーターが挙げた鉄道、あるいはドラッカーの7つの機会+1などを用いて説明する場合には、ICTの進歩がもたらす影響を考慮するのが望ましい。
- オープン・イノベーション
ビジネス・モデルの意味、オープン・イノベーションの概念について説明できる。
*利益を生み出す差異性に対するオープン・イノベーションの意味について学ぶことにより、研究・開発、製品企画、マーケティング、などへの発展的理解に繋げることを狙いとする。
- アーキテクチャについて
製品、工程のアーキテクチャの概念、イノベーションにおけるアーキテクチャの意義について説明できる。
《大項目》 2 知的財産マネジメント
知的財産権に関する基礎的な知識を有し、事業推進に必要な特許等の取得および活用を知的財産部門と連携して的確に行えるマネジメント能力を獲得する。
【中項目】
- 知的財産権とは
知的財産権全般について、日本国および諸外国の制度の概略を理解している。 - 権利化
研究、開発の成果を的確に知的財産権として確保する上で重要な実務上の手続きや法律について理解している。 - 外部連携におけるマネジメント
社内外の知的財産権の譲渡や実施許諾、共同研究から生じる知的財産権の配分など、外部との連携における知的財産権のマネジメントを的確に行う上で重要な実務上の手続きや法律を理解している。 - 知的財産ポートフォリオ
事業化に必要な知的財産群の把握と戦略的な取得を行い、的確な参入障壁を築く上で重要な分析手法を理解している。 - 標準化と知的財産権
知的財産権と標準化のバランスを取りつつ、的確な権利行使が可能な技術戦略を構築するための制度や法律を理解している。 - 知的財産の価値評価
知的財産の価値評価の意義と手法を理解している。
《大項目》 3 技術戦略と研究・開発(R&D)マネジメント
企業戦略、事業戦略と連動、統合した技術戦略の立案に必要な主要事項を説明できる。
技術戦略における実行施策である研究・開発(R&D)のマネジメントに必要な主要事項について説明できる。
【中項目】
- 技術
技術について動機、行為、特性(評価の視点)などの点から科学、工学と比較説明できる。 - 企業戦略、事業戦略との関係
企業戦略、事業戦略と技術戦略の関係を説明できる。 - 技術動向分析
技術動向の分析や予測に関係する主要な事項(例えば、技術の成熟度(Sカーブ)、デルファイ法、外挿法、相関モデル法など)についてその特徴、効用と限界について説明できる。 - 保有技術(内部資源)分析
企業や組織において、技術に関する内部資源分析に用いられる代表的な方法についてその概要を説明できる。
方法としては、要素技術ポートフォリオ、製品・技術マトリックス、技術マップをはじめ種々の名称のもの知られているがこれらを全て包含している必要は無い。自社が保有している技術を体系化し、目的に応じた 点から複数の変数によって分類して俯瞰する方法について知っていることがこの項目の狙いである。 - 技術ナレッジ・マネジメント
技術戦略、研究・開発マネジメントにおける技術ナレッジ・マネジメントの役割についてその概要を説明できる。 - 技術評価
会計・財務の投資採算分析で学んだ手法の利用をはじめとし、多様な観点から、技術を評価する方法についてその概要を説明できる。 - 技術獲得
技術戦略における技術獲得について、自社開発、提携、産学連携の特徴について説明できる。 - 技術ロードマッピング、技術ロードマップ
技術戦略、研究開発マネジメントにおける技術ロードマッピングの位置づけ、役割についてその概略を説明することが出来る。
先端技術を例にとり、技術ロードマップを構成する要素について説明することができる。 - 研究・開発の役割(機能)
「研究・開発」の内容は多様であり「研究」と「開発」では目的、内容が異なるためにマネジメントの視点も異なることを知っている。
企業における研究・開発の役割、研究と開発の差異について説明できる。例として、研究、製品開発、プロセス開発、技術サービス(生産財特有の)などについての説明を挙げることができる。 - 研究・開発(R&D)マネジメント
企業における研究・開発をマネジメントする場合に必要となる主要な事項について、それらの概要を説明できる。
個々の研究・開発テーマ(プロジェクト)を対象とした観点からは、企業等における研究・開発テーマの発案から実施、完了に至るプロセスで行なわれる研究・開発テーマ評価の必要性及び、どの様な観点からそれが行なわれるかについて例を挙げて説明できる。
企業・組織における研究・開発活動を対象とした観点からは、資源配分の状況(研究開発ポートフォリオなどによる)を把握することの重要性、研究・開発活動の成果や生産性の評価についてその必要性、どの様な観点からそれが行なわれるかについて例を挙げて、そこで用いられた評価法の特徴や問題点も含めて説明できる。
《大項目》 4 オペレーションズ・マネジメント
企業活動のオペレーション全般について製品開発、生産計画、資材調達、作業管理、物流管理およびプロジェクトマネジメントの観点から説明できる。
【中項目】
- 製品開発とプロセス
製品開発のプロセスとその管理方法について説明できる。 - 生産性の管理
生産方式と生産性向上の関係について説明できる。 - IE(Industrial Engineering) 工程分析・作業分析・稼働分析などに基づいた生産方式と生産性向上の関係、生産性向上の方法について説明できる。
- 納期と工程管理
納期と工程管理の必要性について説明できる。 - 資材調達
資材調達システムにおける発注方法と在庫発生のメカニズムについて説明できる。 - 原価管理
会計・財務で学んだ原価計算を用いて原価管理の必要性と管理方法について説明できる。 - 品質管理
TQCの概念および管理方法について説明できる。 - サプライチェーンマネジメント
SCMの基本的な仕組みについて説明できる。 - プロジェクトマネジメント
企業活動におけるプロジェクトマネジメントの役割と知識体系(PMのフレームワーク)について説明できる。
C 総合領域
『総合領域の狙いと定義』
技術経営(MOT)専門職大学院における教育の目標は、技術と経営の複眼的な視点から社会や企業、組織における様々な問題に対して、解決を目指して取り組む力を学生が修得することにある。このためには個別の専門的知識やスキルの習得に止まらず、自ら課題を探索し、かつその課題の創造的解決に向けて、知識やスキルを解決すべき問題の性質に照らし合わせて選択的かつ複合的に活用する経験が必要であるので、コア・カリキュラムには知識やスキルを複合的に活用するための総合領域を設定する。総合領域は、それに取り組むことによって学生が将来に直面する可能性のある様々な実務課題に対する創造的な解決策を導くためのアプローチ方法を体得するに至ったことを、成果物によって担保することを意図している。
このような観点から、コア・カリキュラムとしての総合領域を以下のように定義する。すなわち、技術と経営に関わる領域において自ら設定した課題に対し、講義、演習、事例を用いた討議などを通じて習得した知識、スキルなどを総合して技術と経営の複眼的視点から解決を目指した創造的な取組みを教員の指導の下に行なうものであり、その成果は下記の質的要件を具備し、報告書の形で提示される。
『総合領域の満たすべき要件とその狙い』
成果内容の充足すべき要件は以下の通りである。
- 教育の成果が認められる、つまり専門職大学院において習得した知識やスキルが活用されていること。
- 適切、妥当な論理の展開であること。すなわち検討、考察の対象となるデータは妥当な方法で収集されたもので信頼性が確保されていること。分析の手法は適切なものが選択されて妥当な適用がなされていること。主張や提言には創意工夫がみられ、既に知られていることを単に繰り返し述べているだけではないこと。
- 次のうちの少なくとも二つを具備していること。
- 有 用 性:単なる個人の感想や調査結果の羅列ではなく、社会、産業、企業、組織などへの貢献が見込まれること。
- 実現可能性:主張や提言は実現可能性を示す内容になっていること。
- 学術的価値:客観性、厳密性、普遍性、新規性、独創性などの点で学術的な価値を有した内容であること。
専門職大学院の性質上、個々の学生のバックグラウンドや関心によって総合領域にかかる活動は多様性を持つため、コア・カリキュラム構成要素としての総合領域の内容は上記のように、質的要件で規定される。
質的要件が意図するところは、自ら設定した課題に対して学生が適切な調査・分析を実施し、創造的な問題解決に取組んだ経験の担保である。この経験を通じて体得した解決策を導くためのアプローチ方法を基に、学生は専門職大学院を修了した後の実務において直面する可能性のある課題に関し、技術と経営の複眼的な視点に立脚した創造的問題解決力を発揮することが期待される。このため、総合領域における質的要件の達成には、課題の解決に対して最適な知識やスキルを探索・選択することや必要に応じて新たに習得することが求められる。
『総合領域と知識項目との関係』
実務において技術と経営の複眼的視点から創造的問題解決に取組んで得られる成果の評価はその学術的価値とは必ずしも一致しない。自立的に行なわれる学術研究活動とは異なり、実務においては解決すべき課題が常に自らの設定によるとは限らず、経営上、業務上、職務上などからの要請によって規定される場合も多く発生することが考えられる。したがって、求められる創造的問題解決力は限定的な領域にかかるものとすべきではなく、また総合領域において取組む特定の課題にかかる先端的知識やスキルのみをMOT専門職大学院において習得させるだけでは不十分である。
実務において実効性のある問題解決を行うためには、企業や組織において関係する様々な部門や人々と連携して取り組むことが求められ、そうした取組みを円滑に推進していくための共通認識ないしは共通の基盤として、技術と経営に関わる基礎的知識が必要となる。すなわち基礎的知識の習得なしには、総合領域において体得した解決策を導くためのアプローチ方法を実務につなげる可能性を高めることは困難である。したがって、実務において技術と経営の複眼的視点に立脚した創造的問題解決を継続的に実施するためにはMOT教育コア・カリキュラムにおいて知識項目として示した程度の内容の教育は必要不可欠であり、総合領域はその基礎の上に積み重ねられることによって意義を持つものである。
MOT専門職大学院において、習得した知識やスキルを活用する機会は知識項目の習得から総合領域に至るまでの過程で、またはこれらと平行して特定の技術や市場の動向に関する調査や現役の企業経営者による問題提起に対する解決施策の検討が教育として行われるなど、個別の課題に対する実践的な取組みが適宜行なわれて知識やスキルの活用に習熟する機会がより多く設定されているなどのように、各大学の特色に合わせた多彩な内容を選択的なカリキュラムとして作成されるのが望ましい。