第三回シンポジウム [開催報告] #2
開会挨拶
第三回MOTシンポジウムの開催にあたり、以下の3名の方よりご挨拶いただきました。
MOT協議会会長 東京農工大学 大学院技術経営研究科長 古川 勇二
MOT協議会は文部科学省の設置認可を受けた技術経営系専門職大学院10校が参画している協議会で、下記の目的に沿って活動しています。
- より良い日本型MOT教育の実現
- MOT教育の普及とPR
- 日本企業ならびに国家の繁栄に寄与できるMOT人材の供給
専門職大学院は法令の定めるところにより、設置5年以内に外部の認証評価を受けることになります。MOTでは芝浦工業大学が平成15年に開講しており、来年度から各校が順次評価を受けることになります。認証評価は「MOT各校の教育組織や内容が設置申請に準じて実施されているか?」「更なる改善を進め、技術変革に対応していけるか?」などについて、専門的評価を受けるものです。MOT協議会は、来年度からの本格実施に備えて、文部科学省のご支援を得て、MOT教育のコアならびに各校の特色を盛り込めるような認証基準案を取りまとめてきており、この基準案に基づいて、今年は山口大、芝浦工大、東京理科大学の3校で試行を行いました。MOTシンポジウムは今年で3回目になります。1回、2回はMOT教育の日本社会へのPRを主目的としましたが、今回はMOT教育の中身の一層の充実を図っていくために、上記認証評価の試行を踏まえて「MOT教育の最前線」と題して開催します。
基調講演では、花王株式会社の後藤卓也会長、株式会社日立製作所の中村道治フェローより、産業界が技術経営人材を必要としており、MOT教育はいかにあるべきかを講演していただきます。
パネルディスカッションではMOT協議会教育研究専門委員長の農工大MOT亀山秀雄教授より、認証評価基準案取りまとめの趣旨を報告し、その後、認証評価の試行を行った3校の代表と、産業界から三菱電機エンジニアリング(株)尾形仁士社長、ジャーナリズムを代表して日本経済新聞社の中村雅美編集委員を交えて、「MOT教育の抱えている課題とあるべき姿」を討議します。この討議を通じてMOT専門職大学院の教育の実態が社会に知れ渡り、民間企業等におけるMOTへの理解と位置づけが深まることを期待しています。
文部科学省 高等教育局 専門教育課長 藤原 章夫
MOTシンポジウムは今年で3回目になりますが、このシンポジウムを通して日本社会のMOT教育への期待と関心が高まってきています。日本社会はグローバル化と少子化が進み、2007年問題といわれる技術継承の問題が起きています。日本のイノベーションを推進し、競争力の基盤となるのは優れた人材です。そのためには大学および大学院の教育の改革が必要で、特に、専門職大学院には社会の発展に寄与できる有能な人材育成を期待しています。
MOTは平成15年の芝浦工大を皮切りに現在10大学となっていますが、各校はMOT教育のコアとなる部分に、それぞれの大学の特色を発揮して、日本の産業界が必要とする人材の供給に寄与してきています。MOT専門職大学院の認証評価は、来年度より本格的にスターしますが、認証評価はMOT教育の質の確保を図るための不可欠のツールです。国際的な水準を満たすMOT教育とするために、産業界、企業の絶大なる支援が必要で、それぞれの立場からの積極的発言をお願いし、また、MOT教育関係者の更なる努力によって、MOT教育の充実を図り、日本のものづくりに貢献できる人材の輩出を期待します。文部科学省も支援をしていきます。
経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進課長 吉澤 雅隆
イノベーションモデルが変革する中、明日の我が国を担っていく人材としてMOT人材は不可欠です。こうした観点から経済産業省としてもMOTに対する支援を行ってきており、また、先の通常国会では産業技術強化法を改正し、技術経営の強化をその目的に加えました。同法の国会での質疑に際しては、古川MOT協議会会長に参考人として国会で意見を述べて頂いています。MOT教育を普及させることを考えた場合、認証評価の仕組みが確立して初めて産業界は、安心して受講生を派遣し、また質が保証されたMOT人材を採用できます。また、教育界は、質の向上に努め、世の中から求められる教育サービスを提供している機関が正当な評価を受けられます。さらに受講生は、安心して教育機関を選択し、受講した成果について企業の中で正当に評価されます。こうした産業界、教育界、受講生の三者にメリットがある体制の構築が重要です。
また、MOT教育への産業界のニーズは多様です。MOTは専門職大学院はもちろんのこと、非学位、民間を含めて、多様なニーズに応えて行くことが必要であり、評価の仕組みについてもこれらに対応していくことが必要です。このような中、経済産業省においても平成15年よりMOTにおいて望ましい、評価・認定の仕組みについて検討しているところです。世界的な人材獲得競争が激しさを増す中、産業界は、自ら必要な人材の育成・確保に今まで以上に真剣に取り組み必要があり、そのための具体的な行動、人材育成に関する明確なコミットメントが求められています。特にこの認証評価のしくみは、教育の質の保証、産業界に必要な人材の確保の観点から非常に重要であり、産業界の主体的な関与を強く期待しているところです。また、MOTに限らず、人材育成について産業界と教育界の関係を「信頼と協力」の関係に変えていくことが必要であり、経済産業省においても「産学連携人材育成パートナーシップ」を文部科学省と一緒に立ち上げました。産学が連携した人材育成が重要であり、MOTはその典型であると認識しております。本日のシンポジウムを契機にMOT教育分野においても教育界と産業界の不断の対話により、両者間の「信頼と協力」による取り組みがさらに進展することを期待します。
基調講演
『企業の成長を支える技術経営』
花王株式会社会長 後藤卓也 氏
企業が成長して行く上で、技術を経営の中核に置くこと(MOTの本質)が重要である。本日、花王におけるMOT事例を紹介することでご来場の皆さんのお役に立てれば幸いである。
花王の事業ドメインは「清潔ですこやかな毎日をめざす」ことで、花王におけるMOTとは、技術開発に根ざした「よきモノづくり」により、「清潔」「美」「健康」の価値を消費者に提供するとともに、コア技術を応用し産業界へ貢献するためのマネジメントである。
MOT(技術経営)の本質とは、技術に軸足をおいて、すなわち技術を経営の中枢において、経営の立場から「モノづくりのあり方」を問うことである。
技術によって差別化され、独自性を持った「モノ」(商品価値やブランド価値)を生み出し、それが企業価値を高めることになる。技術は顧客の視点に立つことによって初めて顧客に受け入れられ、価値を生みだすことになる。そのための技術の拡がりやチェーンを大事にしていきたい。
<花王のMOT>
MOTにおける技術戦略の3要素は、MITのProf . Cusumanoによると、「価値創造」「価値実現」「価値利益化」とされているが、花王は、MOTとは何かを特別に意識することなくMOTの3要素を実現してきた。
- 価値創造:イノベーションの創造能力として、基盤研究会議に基づく基盤研究の強化
- 価値実現:競争優位をもたらす組織能力として、部門間の壁を越えたコラボレーション(マトリックス運営)
- 価値利益化:技術を利益に結びつける能力として、消費者視点の重視(商品開発5原則)
<花王の研究開発>
「清潔」「美」「健康」を実現する商品を創りだすために、コア技術戦略をたて、技術の強みを長期にわたって発揮し、多様な商品を開発してきた。そのために基盤技術開発研究と商品開発研究をうまく摺り合わせ、革新的な商品を提案してきた。花王におけるコア技術とは、「油脂科学」「界面科学」「生物科学」に代表されるもので、技術ポテンシャルがどの位置にあるかを認識して多面的に展開し、消費者に何を成果として生み出すかのニーズを的確に捉えて商品開発に結び付けている。
- 花王の研究開発部門の基本方針
R&Dを企業の活力・革新の原動力とし、経営戦略との整合を図っていくことである。それは下記のように整理される。- 真理の探究
- 開かれた研究所(まじめな雑談)
- サイエンスからテクノロジーへの転換
(商品開発研究部門と基盤技術研究部門のマトリックス運営) - シーズとニーズのマッチング(研究開発とマーケテイングの融合)
- 異質なものとの協働(多様性の融合)
- 商品開発の5原則
- 社会的有用性の原則
真に社会にとって有用な商品であること - 創造性の原則
創造的技術・技能が盛り込まれていること - パフォーマンス・バイ・コストの原則
コストパフォーマンスで他社商品より優れていること - 調査徹底の原則
徹底した消費者調査に耐えたものであること - 流通適合性の原則
流通過程で情報伝達力があること
- 社会的有用性の原則
- 商品開発研究の基本的考え方
研究開発部門の最大の使命は、新たな価値・市場を創造する画期的な技術・商品を生み続けることである。見てわかる。触ってわかる、使ってわかることを約束できる性能を生み出すことが、消費者と花王の双方にとっての高付加価値の創出になる。クレームは消費者からのありがたいメッセージと捉えている。言葉や行動に隠されている本物のニーズを探ることが、消費者に驚きと感動を与える商品となる。初期の研究段階から、消費者・顧客とのコミュニケーションを重視している。創造性を重視することが競争力の源泉で、他社にまねのできない技術となる。 - R&Dマトリックス組織
商品開発研究所と基盤技術研究所をマトリックス組織にしているのが研究開発体制である。
商品開発のニーズやウオンツに対応できるように、状況に応じて柔軟に各組織が絡み合って研究開発を実現していく。基盤研究の実行部隊としての7研究所があり、その研究現場と基盤研究会議の融合によって新しい価値が創造される。基盤研究会議は花王のコア技術のインキュベーターで、この場を活用して技術が深化・拡大・融合されていく。基盤研究から生まれた差別化技術として、洗剤用酵素「アルカリセルラーゼ」→「アタック」、吸水ポリマー→「メリーズ」、液晶型保湿剤「セラミド」→「ソフィーナ」、低蓄積性食用油「ジアシルグリセロール」→「健康エコナ」、脂質燃焼促進素材「高濃度茶カテキン」→「ヘルシア茶」などがある。
<商品開発の新しい形>
事業部とR&Dとの間でコンセプト(商品設計)とTechnology(技術資産)が交換される。エコナ、ヘルシアのように技術起点で商品像を押し出す「Technology Push」と、商品像起点で技術シーズを引き出す「Concept Pull」があるが、新たな姿として、アジエンスの様に商品像起点で新規シーズを開発するスタイルも試行している。
かつてはニーズが顕在化していたが、最近は潜在ニーズといえども簡単には捉まらない「カオス」の時代で、潜在ニーズを探り、掘り起こす時代になってきている。
「Concept Pull」は、トレンドを生むコンセプトの提案が求められ、そのためにコンセプトを具現化する技術の蓄積、そして技術を消費者価値や情緒に変換する仕組みと人材がいる。
「Technology Push」は、驚きを与える機能の提案が求められ、多様な消費者価値を具現化する新しい基盤技術、そして消費者の価値や情緒を技術語に翻訳し理解する人材がいる
。
この両方を絡み合わせていくことによって、多様な消費者・顧客ニーズを的確に捉えた商品開発が可能になるのではないかと考えている。
また、社内外のコラボレーションも更なる推進が求められる。
<花王R&Dの不易流行>
不易(継続強化すべき文化)は、現場主義に基づく緩やかな統制、開かれた研究所(マトリックス運営)、消費者起点の技術開発と基礎研究である。
流行(新に獲得すべき文化)は、研究生産性の重視、異質なものとの融合(社外研究資源の活用)、幅広い技術に対する判断力の育成・強化(技術の目利き)である。どんな技術が花咲くかの目利きである。
R&Dの強化の方向は、「深める、広める、融合する」に加え、外部との協業、異質の取り込みと新たな結合により、「花王流MOT」を強化・ブラッシュアップすることである。
<まとめ>
- 事業の成否は企業の総合力で決まる。
すべての部門がシンクロすること、そして地味な部門のエンカレッジが大切である。 - 環境がどう変わろうとも、最も重要な経営資源は技術
消費者は、二度はだませない。そのためには、コア技術を磨いて徹底的に活用する。コア技術を徹底的に磨いて活用する事がMOTの本質である。 - 企業成長の源泉は、確固たる技術が根底にある総合力
総合力は人材によって支えられる。企業を生かすも殺すも最後は「人」が鍵を握る。その総合力を支えているのが、「マトリックス運営」である。
『企業イノベーションとMOT教育』
株式会社日立製作所フェロー 中村道治 氏
1. 日立グループの生い立ち
日立は、久原鉱業日立鉱山工作課長小平浪平によって、1910年久原鉱業所日立鉱山付属の修理工場として創業した。「技術を通じて社会に貢献する」を創業の理念とし、自らの技術「国産技術」によって、「もの」をつくることを志した。この中で育まれ、受け継がれてきたのが、「和」「誠」「開拓者精神」からなる日立精神である。
1920年代から1940年代にかけて、電気機関車、エレベーター、電気冷蔵庫、電話自動交換機、交流発電機などの基幹事業を成長展開させ、さらには買収、吸収合併、事業所譲受による事業の拡大を図った。戦後、1950年代から70年代にかけては、エレクトロニクス分野、情報分野に展開し、素材事業、情報事業の再編とグループ事業の拡大を図った。
日立グループの2006年度の売上高は、10兆2,479億円で、社会基盤事業、産業基盤事業、生活基盤事業、基盤技術製品事業、情報基盤事業などからなる。約35人のCTO、5,000人の研究者が中心になって、グループシナジーを発揮し、お客様や社会の要請に応えようとしている。
<企業環境に変化に対応した技術経営>
1990年代から2000年代は、失われた10年といわれる時代であったが、変化をチャンスにすべく、新しい技術経営システムの構築を図った。基礎研究と産業競争力との乖離、いわゆる「死の谷」の克服に関しては、事業部門の技術力強化のために、研究部門から事業部門への人員のシフトを行う一方、コンカレントエンジニアリングを重視した。また、ソフトウェアなどの知的財産の重要性を欧米企業との係争の中で体験し、これを重視する文化を育てた。技術開発力は企業の根幹であり、現在は、基礎・先行研究の再強化、プラットフォームの拡充、開発スピードの改善のために、マトリックス経営、協創、産学連携に取り組んでいる。
<ビジョナリーカンパニーを目指して>
企業は明確なビジョンンのもとで行動することにより、社会から認知され、従業員から信頼される。会社の軸がブレないことが、長年にわたって優れた企業であり続けるための必要条件である。日立の企業ブランドは、総合技術と信頼であり、製品の信頼性を高めていくことが、社会的使命感の共有に繋がり、地球社会を支えていくことになる。さらに、野武士精神で表される挑戦し実行する社風、長期的視野での経営、○○さんとさん付けで呼び合うことに象徴されるフラットな組織などの企業文化が培われてきた。今日の新しい経営環境の中で、「グローバル化」「協創」「機能つくり」を新しい日立の文化に定着させようとしている。
2. 21世紀の社会のニーズに応える電機産業
グローバルな世界で尊敬される国になること、そのためには社会の潮流、2025年の日本の姿を想定し、イノベーションの創出を後押しする多面的な施策群がある。これらは、内閣府で取り纏められた「イノベーション25」や経済産業省で取り纏められた「イノベーション創出の鍵とイノベーションの推進」などに詳しく分析されている。特に電機産業は、研究開発の重視、知の統合と活用、グローバル連携、イノベーションを生み出す人材の育成を通じて、社会に貢献していかねばならない。また、人口問題、環境・エネルギー問題、情報爆発を踏まえて、産業の次の牽引力となり、21世紀の社会ニーズに応える大型製品を生み出していくことが、技術経営において重要なテーマである。
21世紀の電機産業においては、内外の大学や他企業と共に「知の協創」、そして、生活者、コミュニテイ、企業、公共とともに「価値の協創」、この二つを行なっていくことが企業活動のモデルになる。すなわち従来からの企業活動に社会との協創をとりいれた活動を行なうことになる。
3. 21世紀型企業経営を目指して
日立は、グローバル経営戦略として、海外売上比率を現在の40%から50%以上を目指す。そのために、現地へ権限委譲を行い、地域総代表・地域本社制を採用する。世界全域、北米、欧州、中国、アジアのそれぞれにビジョンを立て、グローバル事業を展開する。イノベーションの源泉は科学である。産学連携成果を事業ポートフォリオに取り込み、大型の共同研究を行うことによってインパクトの大きい成果を求める。このために、大学との連携は、従来の個人プレーからチームプレーに、そして成果を約束した(マニフェスト)型へと移行している。また、人材育成など包括的な相互協力を図っている。
CVC制度は、ベンチャー企業への戦略的投資を通じたビジネス機会の拡大と、ベンチャー精神を啓蒙して、社内R&D部門へのフィードバックを狙いにしている。日立の将来事業の布石となる技術・事業を持っている会社を対象に、直接投資とファンド(間接)投資を行っている。日米のベンチャー企業の活動は、規模的に1桁以上の格差があるが、CVC活動をもとに「協創」を通じて、ベンチャー企業とのwin-winの関係が増えることを期待している。
4. 研究開発の目指す方向
研究開発のOUTCOMEは、(1)基幹事業の新展開、(2)新事業育成、(3)基盤技術プラットフォームの充実である。そのための施策は下記のようになるが、先行性と信頼性が重要である。
- 事業戦略ロードマップ、技術長計の毎年見直し
- 経営資源の戦略的投入
- プロジェクトの可視化(戦略プロジェクト、特別研究の推進)
5. 世界に通用する人材の育成
日立精神である「和、誠、開拓者精神」の継承のために、OJT、Off-JT教育を組合せ、技術者の人格形成、創業型人材育成に注力している。
日立では博士号を持つ日立関係者の会として「返仁会」がある。会員総数2,231名で、このうち現役(正会員)は1,218名である。これからの研究開発においては、世界に通用するレベルの高い研究を少数精鋭で行うことが望ましく、研究者が博士号を持つことの意味は、これまで以上に高まっているといえる。レベルの高い研究者でないと、世界をリードできない。
<目指す人材像「事業開発インテグレーター」>
社内技術教育で最近注目を集めているのが、ACE研修である。この研修では、若手技術者を、下記のような創業型人材に育成する。
- 新しい事業を構想立案できる人
- その事業を実現するための開発リーダーとなれる人
- 多岐にわたる技術や人を一つの目的にインテグレートできる人
- 構想立案能力の向上(What to make)
- 開発リーダーとしてのマネジメント能力の向上(How to lead)
- 新事業・新製品開発の提案
6. これからのMOT教育への期待
「知」、「情」、「意」の真の総合力が必要である。知力だけではギスギスした人間関係しか作れない。幅広い知識だけではなく、T型、Π型といわれるように、様々な知識・技術を統合し、新たな価値創造へと活用できる人材が求められる。また、平均的ではない、トゲトゲした特長のある人が求められる。
企業は一人の会長、あるいは社長によって成り立つのではない。日立は30万人の同じ思いの所員の総合力によって成り立っている。所員すべての意思と能力が一つの方向、すなわち企業ビジョンである「技術を通じて社会に貢献する」に向うとき、大きなインパクトが実現する。技術経営の真髄はそこにある。
最後に好きな言葉をいくつか紹介したい。
- 教師としてのラザフォードの最も際立った素質は、研究の方向を示し、後進の学者に力を貸してやり、成果を正しく評価する能力でした。弟子達の能力として、彼が最も高く評価したのは、思考の独自性、積極性、個性でした。(カピッツア、『科学・人間・組織』)
- 諸民族の運動を生み出すのは権力ではない。知的活動ではない。それは、事件に参加し、常に事件に最大の直接参加するものが、最小の責任を負い、当然その逆も成り立つように編成される、すべての人々の行動である。(トルストイ、『戦争と平和』)