第三回シンポジウム [開催報告] #3
パネルディスカッション『MOT教育の最前線:認証評価試行を踏まえて』
モデレータ
MOT協議会会長 東京農工大学 大学院技術経営研究科長 古川 勇二
パネリスト
亀山秀雄 MOT協議会教育研究専門委員会委員長
三菱電機エンジニアリング株式会社 尾形仁士 社長
芝浦工業大学 柴田順二 研究科長
東京理科大学 西野 和美 准教授 プログラム・コーディネータ
山口大学 上西 研 研究科長
日本経済新聞社 中村雅美 編集委員
モデレータ・パネリストのご紹介
MOT協議会会長 東京農工大学 大学院技術経営研究科長 古川 勇二
*パネルディスカッションの狙いMOT専門職大学院が認証評価を行うことによって、MOT教育内容の改善を図られ、その成果をNon DegreeMOT校にまで普及し、技術経営社会に貢献していきたい。議論のポイントは、『MOT教育のコアとなるものが何で、それに各大学の特色を加えて、有用な人材を育成していく教育とはどんなものか』である。認証評価の試行を終えた3大学、民間企業からのMOT教育への要望、さらには一般社会からの期待を盛り込んで議論し、フロアからのコメントもいただいて、『充実した日本型MOT』を考える機会にしたい。
MOT協議会教育研究専門委員会委員長
東京農工大学大学院技術経営研究科副研究科長 亀山秀雄
*MOT認証基準の狙いと社会貢献
MOT認証基準制定の狙い、そのポイント、認証評価試行結果の概要が配布冊子に沿って報告された。
<認証評価基準の狙い>
- MOT専門職大学院における教育実態が、社会から見えるようにし、民間企業等でのMOTへの理解が深まる事
- MOT教育のコア部分と、それに各大学がどのような特色を付け加えて有用な人材を育成しようとしているかを示す事
- 認証評価に基づいて、各大学の教育内容が改善され、質の向上が図れる事
- 主に、社会人を対照とし、平日夜間および土曜日に開講
- 学位は技術経営修士(専門職)
- 修了要件の単位数は、工学系より多い。
- プロジェクト研究等を修士論文に代わる必須要件とし、実践力の強化に努めている。
- 専任教員の3割以上が実務家教員で、学生1人あたりの教員数も多い。
認証評価基準案に基づいて、各大学が自己点検評価を行い、5人の評価委員による評価と半日の実地調査が行われた。実地調査では、大学側からの説明、施設見学、修了生へのインタビュー、最後に評価委員からの指摘・講評が行われた。
この試行結果を基にMOT協議会としての認証基準案を制定し、来年度からの本格実施に備えていく。
山口大学 上西 研 研究科長
山口大学は地域に立脚するMOTである。地域の企業からのニーズにこたえると共に地域の発展に寄与していきたい。教育方法は、社会人の就学の便を考えて「山口―広島―北九州を結ぶ3拠点体制」、「土曜・日曜の集中開講」を実施してきた。今回の認証評価を受けて、これまでの内部評価と異なる視点からの指摘があり、教務委員会でカリキュラムの見直し、クール制の吟味を行っている。認証評価は教育内容の改善に対する新たな視点からの問いかけであり、質の向上に有効であった。
東京理科大学 西野 和美 准教授 プログラム・コーディネータ
理科大は、総合科学技術と経営の二つの軸足を持った「π型人材」の育成を目指している。自分達では申請時の教育目標や内容を十分実施していると評価していたが、この認証評価試行は、これまでのMOT教育に対する良い「棚卸」の良い機会になった。特に、本専攻の独自性や強みに対して周囲の認識との違いがあることが分かった。さらに、これまでの教育に対する実施内容のPDCAのAに対する部分が不十分であること、理科大の教育資源の有効活用、企業との産学連携の促進などの改善点を認識できた。
芝浦工業大学 柴田順二 研究科長
MOT教育の構造は、文理融合+実理融合と考えている。文理融合は「経営+工学」の境界領域、実理融合は「工学+技術」の境界領域である。実務・実践スキル教育はプラクティカルなOff-JTである。企業からの要求は、暗黙知を形式知にしていく論理的思考を身に付けることで、体系的な知見、実践的な追認教育による総合力が求められている。MOT教育の質の保証は、入学時のポテンシャルと修了時のポテンシャルの差で、それがMOT教育の付加価値である。それを達成できるようなMOT教育プログラムを作り上げていくことが認証評価の課題である。
三菱電機エンジニアリング株式会社 尾形仁士 社長
日本の競争力の源泉は貿易立国である。商品別の輸出概況は、約7割が機械関連で、化学、金属がそれぞれ10%未満である。また、1994年以来、GDPは500兆円でほとんど伸びていない。政府は今後3%で延びていくという前提の基に、2020年のGDPは700兆円になるという計画を立てているが、200兆円を生み出すシナリオが必要である。そのシナリオは、強い技術をより強くしていくことである。これがMOT教育の柱になると考える。MOT教育は、「技術系にマネジメント教育」あるいは「事務系に技術教育」といわれるが、「技術系」「事務系」の区別を撤廃して、両者のベクトルをあわせることがシナリオ実現に必要である。
日本経済新聞社 中村雅美 編集委員
今、社会が求めている人材は、T(あるいはπ)字型人間である。縦棒は特定の分野(自分の得意とする分野)に強いこと、横棒はいろいろなことを幅広く知っており、興味を持つことを意味している。MOT教育では、T字型人間を輩出して欲しい。
MOT教育に求めるもの
- 現場に即した内容の教育論ではなく現場を重視した教育
- 経営資源は、ひと、もの、金であるが、技術も重要なファクターである。
- 作る、売るのは単に「もの」ではなく、+情報+倫理である。この教育をしっかりと実施して欲しい。